2026/08/31

水と光が織りなす究極のシンフォニー

PC制御によるリアルタイム連携が可能にした壮大なマルチメディア水上ショー

2025年の大阪・関西万博の会場では、毎夜、圧巻のマルチメディア 噴水ショーがフィナーレを飾り、最大2,500人の観客を魅了しました。制作会社のECA2は、ステージ制御を専門に手がけるdb Show Control & Automationと協力し、8,800平方メートルにわたる広大なエリアに、300基の噴水と30基の炎エフェクトを設置。それらをレーザー、映像、音響技術と正確に同期し壮大な水上ショーを演出しました。ショーを支えたのは、ベッコフのPC制御技術です。エンターテインメント専用プロトコルを単一プラットフォームに統合し、自動化、安全機能、AVシステム全体を一体化しました。

大規模な施設やアトラクションを扱うエンターテインメント業界では、観客の期待値が日々、高まり続けています。迫力のある看板ショーづくりに定評のあるECA2のような制作会社は、プロジェクトごとに技術の限界を超え、常に表現の可能性を広げることが求められます。大阪・関西万博 2025のウォータープラザで上演された水上ショー「アオと夜の虹のパレード(Under the Midnight Rainbow)」は、それを象徴するようなプロジェクトでした。

水と光のショーの専用モニターを備えた制御コンソール。背景には、無数の噴水がオレンジ色に輝いています。
ベッコフのオープンな自動化技術により、数百台ものドライブをリアルタイム制御しながら、同時に映像・音響システムとも連携することができます。

今回のような複雑な設備を実現するには、一般的な用途の限界を超える自動化アーキテクチャが求められます。英国のdb Show Control& Automation は、約15年にわたり、ECA2のプロジェクト向けにターンキー制御システムの設計、プログラミング、構築を担ってきました。同社のCEO 兼創業者のデビッド・バーチャル氏はこう語ります。「今求められているのは、数百台のドライブをリアルタイム制御しながら、同時にビデオサーバーやQ-SYS® オーディオシステムとネイティブに通信できるシステムです。これらのプロトコルの統合を可能にするのが、ベッコフのオープンなPC制御技術です。他の産業用制御システムでは、この機能が提供されません」

分散型システムと厳格な納期

大阪万博の6か月の会期に向けて、広大なウォーターパーク全体に、直線噴水を280基、ダイナミックな動きが可能な3D噴水を8基、巨大なウォータースクリーン2面、カスケードスクリーン1面、そして炎エフェクト30基を配置しました。さらに、フォグマシン、プロジェクションマッピング、投影機材、そして中央の音響システムも加わります。

こうした屋外アプリケーションを成功させる鍵は、関連するメディアと演出効果のすべてをリアルタイムで把握し、環境条件を考慮して制御することにあります。たとえば、強風で水噴射が炎の演出に干渉したり、客席の観客にかかったりしてはなりません。従来型の構成では、ショー再生用の制御系と、センサーやアクチュエータ用の制御系が別々に管理されることが多く、その結果、インターフェースでのロスや遅延が生じ、エンジニアリング工数増大の要因になっていました。「2,500人の心を動かし、感情を引き付け続けるには、舞台裏の技術が一瞬たりともつまずくことはできません」とECA2 のテクニカルディレクターであるオーレリアン・ブーヴィエ氏は語ります。「だからこそ、水上ショーの魔法を見えないところで確実に、絶対的な精度で制御できる自動化プラットフォームが必要でした」

トポロジーとセンサーデータ処理

これらの要件を満たすため、db ShowControl & Automation は専用の自動化トポロジーを導入しました。中核となるのはCX5240 組込み型PCで、中央制御室のショーコントローラーとして機能します。フィールド側は、ウォーターパーク各所に配置された11台の制御ラックで分散制御します。ネットワークは全体を通してEtherCAT と標準規格のUDP/TCP Ethernet を使用しています。EK1100 EtherCATカプラが、9台の制御盤に設置された分散I/Oからの信号を収集します。「ベッコフの制御アーキテクチャの最大の利点は、オートメーションとITとが途切れなく一体化している点です」と、dbShow Control & Automation のエンジニアリングディレクターであるクレイグ・パウ・チョン氏は説明します。「EtherCAT経由で可変周波数ドライブを約300台制御しています。ここで実現できるサイクルタイムと同期制度が緻密な演出に欠かせません。同時に、TCP/IPでAVシステムとも容易に連携できます。必要があればEtherCATターミナルを追加するだけで、システムはほぼ無制限に拡張可能です」

炎と煙が立ち上る、夜間の水と火のショーの前で撮影を行うクルー。
30基の炎エフェクトの制御は、安全PLCとTwinSAFEターミナル EL1918を介して、メイン制御システムに直接統合されています。

このソリューションの大きな特長は、ソフトウェアベースの環境監視機能をTwinCATに直接組み込んでいる点です。会場各所に設置されたセンサーが、温度・湿度・風速・風向・水深といった指標を継続的に計測します。取得したセンサーデータはすべてCX5240にリアルタイムで集約されます。TwinCATはこれらのデータストリームを解析し、必要に応じてショーの進行に介入します。たとえば、センサーが観客席に向かう危険な突風を検知した場合、制御は該当するインバータを瞬時に停止させるか、特定の炎の演出を無効化します。機能安全もまた自動化の重要な要素です。TwinSAFEターミナルを用いて非常停止回路を管理し、炎の演出の実装も行います。安全コントローラはEtherCAT ネットワーク上でFSoEにより通信するため、並列配線は不要です。

収録・再生の常識を塗り替える

複雑なDMXの収録や音声同期には、通常、大型の専用サーバーラックが必要です。db Show Control & Automation はTwinCATを基盤に独自の収録・再生プラットフォームを開発し、この分野で新たな道を切り開きました。ハードウェアは超小型産業用PC C6017 2台で構成し、1台をマスター、もう1台をバックアップとして設定しています。ショーの初期プログラミングは、GrandMAやMedialonなど定評あるエンターテインメントツールで作成しました。そこから生成されたArt-Net™信号をマスター側の産業用PCが録音します。システムはQ-SYS® ネットワークに統合することで、きわめて高精度なタイムコードを受け取ります。本番運用では、C6017が32 のDMXユニバースを並列に、しかもGrandMAなしで独立再生します。

「手のひらサイズの産業用PC で、タイムコード付きのショー全体を確実に収録し、そのまま再生できる――これはまさにパラダイムシフトです」とチョン氏は強調します。「ベッコフのIPCが持つ性能と、TwinCATソフトウェアの柔軟性がなければ、設置スペースもハードウェア費用も、もっと大きな見積もりになっていたでしょう」 現地のオペレーターは、接続された マルチタッチコントロールパネル CP2907を使用して、アプリケーションにローカルでフルアクセスできます。

ITとの融合:データロギングと診断

制御盤内に設置された、EtherCATターミナルを備えたベッコフの制御システムと、接続された青色と黄色のデータケーブル。
制御の中核はCX5240 組込み型PCが担います。EtherCAT 経由で約300台の噴水用ドライブをリアルタイムに同期します。

TwinCATはIT機能を備えているため、純粋な機械制御にとどまらずデータ処理にも活用されています。たとえば、TwinCAT TCP/IP(TF6311)およびTwinCAT Modbus TCP(TF6250)のソフトウェアモジュールを用いて、他社製品やUPS システムと通信します。データの可用性を確保するため、すべてのシステムデータとセンサーデータはTwinCAT Database Server(TF6420)を介してデータベースに記録されます。これにより、オペレーターはHMIのフロントエンドからサイト全体をリアルタイムに監視でき、踏み込んだ診断も実施可能です。ポンプの性能や環境条件に異常が出た場合でも、過去のショーとまったく同じパラメータを秒単位で呼び出して分析できます。この接続性は、ECA2にとって大きなメリットとなりました。万博開催期間中を通して、約200万人がショーを鑑賞しましたが、進行を妨げるような技術トラブルは一度もありませんでした。

大阪万博での成功は、エンターテインメント業界におけるオープンな自動化標準の重要性を改めて示しました。「ベッコフは産業用途のハードウェアに、DMX、sACN、そしてQSC® 連携といったプロトコルをネイティブに組み合わせられる、唯一の制御システムメーカーです」とデビッド・バーチャル氏は締めくくります。特にベッコフの緊密なサポートにより、グローバル案件に求められる迅速な対応力を確保できました。同社では、すでに同規模の次期プロジェクトも動き始めているということです。